
——野沢工務店のことと、野澤社長のこれまでについて教えてください。
野沢工務店は1979年創業で、今年で47年になります。
工務店として始めたのは父である現会長ですが、実は祖父も曽祖父も大工でした。昔は今のような工務店という形ではなく、一人大工として仕事をしていたので、曽祖父から数えると僕で4代目になります。
うちのルーツは、静岡市の山間部にある井川です。会長もそこで育ち、木が身近にある環境で育ってきたこともあって、「地元の木をしっかり使って家を建てたい」という考え方は、昔から野沢工務店の根底にあります。
地域の木を使い、地域の職人の手で家をつくる。代が変わっても、そこだけは変わらず受け継いでいきたいと思っています。それが私たちのアイデンティティですね。
会長はもともとゼネコンに勤めていて、そこから独立して工務店を始めました。現在の静岡市葵区に拠点を構えたのは40年ほど前です。市街地でありながら、少し行けば山がある。そんな静岡らしい環境の中で、ずっと家づくりを続けてきました。
——野澤社長ご自身はどんな経歴なんですか?
本当に建築一家で育ったんです。親戚にも電気屋や左官など職人が多く、小さい頃から周りにはものづくりに関わる人たちがたくさんいました。
ただ、自分自身は高校まではずっとサッカーをやっていて、本気でプロを目指していました。名門校に進んだのですが、全国から集まってくる選手たちを目の当たりにして、世界の広さを感じたんです。
そこで改めて将来を考えた時に、自然と建築という選択肢が出てきました。やはり、小さい頃から身近にあったものだったんでしょうね。大学では建築学科に進みました。
大学時代は、建築の中でも自分が何をやりたいのか模索していた時期です。古民家保存のゼミに入り、古い建物や店舗を見て回ったり、海外の建築に触れたりしました。当時は住宅だけに興味があったわけではなく、建築というものを幅広く見ていました。
卒業後は住宅会社に就職し、住宅設計の仕事を経験しました。その後、静岡に戻ってからは現場監督として、住宅づくりを一から学び直すような日々でした。
木の家っていいな、住宅って面白いな、と本当に感じるようになったのはその頃です。「小さく豊かに暮らす」という考え方にも触れ、家は単に大きければいいわけではなく、暮らし方そのものをつくるものなんだと気づきました。
そこから木造住宅の世界にどんどん惹かれていきました。地域の工務店同士の勉強会にも参加させてもらい、木のこと、設計のこと、職人の技術のことを学ぶうちに、木造住宅の面白さに夢中になっていったんです。

専務だった15年ほど前から、野沢工務店の家づくりも少しずつ現在の方向へ変えていき、11年前の4月に社長に就任しました。今が12年目です。
社長になった時に改めて考えたのが、「野沢工務店は何のために家をつくるのか」ということでした。
長く持つ家であること。美しいデザインであること。自然素材を使うこと。そして、職人の技術を残していくこと。
それまで大切にしてきたものを言葉にして、会社の理念として整理しました。今では、新しく入ってくれる社員にも、技術や経験だけでなく、そうした考え方に共感してもらえるかを大切にしています。
——社長になられて12年、会社も変わってきましたか?
かなり変わったと思います。特にこの数年は、「どんな会社でありたいのか」を改めて考え直しました。
以前は新築を年間24棟ほど手がけていましたが、現在は新築とリノベーションを合わせながら、一棟一棟にしっかり向き合える体制を意識しています。
単純に数を増やすことよりも、自分たちが「いい」と思える仕事をきちんと続けていくこと。そのためには、会社で働く人が建築を楽しめる環境であることも、とても大事だと思っています。
最近、自分の中で強く思うのは、「つくる側が楽しんでいること」の大切さです。
自分たちが面白いと思えない仕事を続けていても、職業としての魅力は次の世代には伝わりません。逆に、大工も設計も現場監督も、「もっとこうしたら面白いんじゃないか」と考えながら仕事をしていれば、その熱はお客様にも伝わると思うんです。
良い仕事をして、お客様に喜んでもらい、働く人もやりがいを感じる。その循環をつくれる会社でありたいと思っています。

——野沢工務店が目指している家づくりについて教えてください。
最終的に目指しているのは、地域に還元できる家づくりです。
具体的には、街並みをつくることと、家を長く持たせること。僕は「長く建っている家が、いい家」だと考えています。
もちろん、耐震性や断熱性といった住宅性能は大切です。ただ、性能や設備は時代とともに進化しますし、必要に応じて改修しながら更新していくこともできます。
それでも残っていく家には、それを超えた魅力があると思うんです。
「古くなったから壊そう」ではなく、「この家は残したい」「手を入れながら住み続けたい」と思ってもらえること。そこに、家づくりの本当の価値があるのではないかと考えています。
だから野沢工務店では、ラグジュアリーな豪華さではなく、機能美や経年美といった美しさを大切にしています。
木をはじめとする自然素材は、時間が経つことで風合いが増していきます。傷がついたり色が変わったりすることも含めて、その家の歴史になっていく。手を入れながら長く付き合っていける素材だと思っています。
自然素材を使い、長く残る家をつくろうと考えると、そこにはやはり職人の技術が必要になります。
家を建てるということの責任を考えていくと、最終的にはそこに行き着くんですよね。

——「建築の技術を残す」ということも大切にされていますね。
これは会社の理念にも入れている、大きなテーマです。
建築の世界もどんどん効率化されています。それ自体は悪いことではありませんし、機械や新しい技術を上手に取り入れていくことも必要です。
ただ、効率だけを優先していくと、人の手だからこそできる仕事や、長い間培われてきた技術がなくなってしまう可能性があります。
だから野沢工務店では、「ここは職人の腕が生きる」「ここは手でつくるから面白い」という部分を、意識して家づくりの中に残しています。
職人にとって面白い仕事があることは、技術を次の世代につなぐうえでも大切です。若い人が大工や左官の仕事を見た時に、「格好いいな」「自分もやってみたいな」と思える仕事でなければ、技術は続いていきません。
職人が誇りを持って働けて、きちんと仕事として成り立ち、社会から必要とされる。そんな環境をつくることが、今の大きな目標のひとつです。
手仕事がなくなるのではなく、新しい技術と共存しながら、改めてその価値が見直される時代が来ると思っています。その時まで、きちんと技術をつないでおきたいですね。

——リフォームやリノベーションにも力を入れているそうですね。
そうですね。
「長く持つ家」「次へつないでいく家」を掲げている以上、新しく家を建てるだけではなく、その後を守っていくことも工務店の大切な役割だと思っています。
野沢工務店が目指しているのは、地域の住まいの「町医者」のような存在です。
家を建てた後、何かあれば相談してもらえる。年月が経って暮らし方が変わったら、リフォームやリノベーションをする。そして、また次の世代へ引き継いでいく。
いいものをつくって、きちんと手入れをして、長く使っていく。その「守る」という役割に、これからさらに力を入れていきたいと思っています。
実際、ここ数年はリノベーションのご相談がかなり増えました。
昔、野沢工務店で家を建ててくださった方から相談をいただくこともあれば、中古住宅を購入して、自分たちらしい住まいにつくり変えたいという方もいます。
建築費や土地価格など、家づくりを取り巻く環境が変化する中で、「新しく建てる」だけでなく、「今あるものを活かす」という選択肢の価値は、これからますます高まっていくと思います。
新築もリノベーションも、考え方は同じです。
いいものをつくって、しっかり守り、次の世代へつないでいく。それが地域の中で循環していけば、最終的には街並みや地域そのものを育てていくことにつながると思っています。

——大工さんも社員として育てているんですよね。
はい。社員大工の育成に力を入れるようになったのは、7〜8年ほど前からです。
それまでも腕のいい大工さんたちと一緒に仕事をしてきましたが、大工の数が減り、若い人がなかなか育たない状況を見て、このままでは木造住宅をつくる技術そのものが残らなくなるという危機感がありました。
木造建築を続けていく以上、大工は欠かせない存在です。だったら、自分たちできちんと育てようと、社員大工という形に舵を切りました。
現在の家づくりでは、すべてを手刻みにするわけではありません。機械を使った方が合理的な部分にはプレカットなどを活用しながら、機械では難しい部分や、技術として残したい部分は大工が手で刻みます。
昔ながらの方法をそのまま守るというより、新しい技術と職人の技術をうまく組み合わせる。そんな家づくりが今の時代には合っていると思っています。
大工たちも、難しい納まりや手仕事がある現場ほど楽しそうなんですよ。
そういう仕事があるからこそ、先輩から後輩へ技術が伝わっていく。会社としても、技術を使う場をきちんとつくっていくことが大事だと思っています。
最近では、ドイツから大工が研修に来たり、県外の大工と一緒に仕事をしたりと、会社の外との交流も生まれています。
工務店や地域の枠を越えて、大工同士が行き来しながら技術を高め合う。昔の「旅大工」のような仕組みを、現代なりの形でつくれたら面白いなと思っています。

——野沢工務店の家づくりの強みを教えてください。
一番は、長期的に価値が続き、次の世代へつないでいける家を目指していることです。
長く住めることはもちろん、家族の状況が変われば手を入れながら使い続けられる。子どもの世代にも「この家を残したい」と思ってもらえる。そういう家をつくりたいと思っています。
もう少し具体的なところで言うと、まずはその土地に合った一棟一棟の設計です。
敷地の形、光の入り方、風の通り方、周囲からの視線、庭との関係。その場所をしっかり読み取って、そこで暮らす人にとって一番心地よい配置や間取りを考えます。
静岡市内のように限られた敷地も多い地域では、建物の配置や窓の取り方ひとつで、住み心地は大きく変わります。
既製のプランを当てはめるのではなく、その土地、その家族に合わせて考えることにはこだわっていますね。
そして、もうひとつがデザインと手仕事です。
木や自然素材を使えば、それだけで良い家になるわけではありません。「なぜここに窓があるのか」「なぜこの高さなのか」「なぜこの素材なのか」という理由をひとつずつ考えながら、全体を整えていきます。
建具や家具、キッチンなどの造作も多く取り入れていますが、単に見栄えのためではなく、暮らしに合ったものをつくれることが造作の良さだと思っています。
ありがたいことに、野沢工務店ではご紹介をきっかけに来てくださるお客様も多くいらっしゃいます。そこからホームページやInstagramで施工事例を見て、「こういう家が好きです」と感じてくださり、ご相談につながることも多いですね。
最近では店舗併用住宅のご相談も増えています。パン屋さんと住宅、酒屋さんと住宅など、お店と暮らしが一体になった建物ですね。
住宅であっても店舗であっても、そこで過ごす人の暮らしや仕事を考えて、その場所にしかないものをつくる。その姿勢は変わりません。

——新しいモデルハウスも計画されているそうですね。
はい。事務所のすぐ近くに、新しいモデルハウスを計画しています。
今回は、これまで「いいと思っていても、なかなか住宅では採用しづらかったもの」も含めて、職人の技術や素材の良さをしっかり見せられる建物にしたいと思っています。
建具は製作し、瓦を載せ、畳を入れ、造作キッチンや造作の浴室、土壁なども取り入れる予定です。宿泊体験もできるようにして、見た目だけではなく、自然素材に囲まれて過ごす感覚や心地よさまで体験してもらえる場所にしたいと思っています。
目指しているのは、単に高価なものを集めたラグジュアリーな住宅ではありません。
ものづくりや手仕事っていいよね、素材の良さってこういうことなんだね、と感じてもらえる建物です。
そして、このモデルハウスは、ただ家を見てもらうだけの場所にはしたくないと思っています。
今、さまざまな職人さんと話をしていると、地域に残る技術や素材が少しずつ失われていることを感じます。
だったら、工務店だけで考えるのではなく、畳屋さんや瓦屋さん、家具職人など、地域でものづくりに携わる人たちと一緒に、新しい使い方や見せ方を考えられないかと思っています。
異なる分野のつくり手たちが集まり、互いの仕事を知り、学び合い、そこから新しいものが生まれていく。
このモデルハウスを、職人の技術や地域の文化を次の世代へつないでいく拠点にもしていきたいですね。
——野沢工務店にはどんなお客様に来てほしいと思っていらっしゃいますか?
ものづくりや手仕事、自然素材の良さに共感してくださる方ですね。
手でつくるものや自然素材は、工業製品のようにすべてが均一ではありません。
木には節がありますし、色や木目も一枚一枚違います。年月が経てば色も変わります。職人が手でつくったものにも、その人の手仕事ならではの表情があります。
そうした違いも含めて、「これがいいね」と感じてもらえる方と一緒に家づくりができたら、一番うれしいですね。
野沢工務店の家づくりは、お客様と一緒につくっていく部分がとても大きいです。
家を建てることそのものが目的ではなく、その家でどんな暮らしをしたいのか。休日をどう過ごしたいのか、何を大事にして暮らしていきたいのか。そこから一緒に考えていきます。
だからこそ、価値観を共有しながら、一組一組のお客様と丁寧に家づくりをしていきたいと思っています。
——野沢工務店で働いてみたいという人へのメッセージをお願いします。
一緒に木造建築を楽しみたい、という方に来てもらえたらうれしいですね。
楽しむことが基本ですが、同時に建築は人の暮らしを支える、とても責任のある仕事です。そこに誠実に向き合えること。そして、建築が好きで、好奇心があることを大切にしています。
「これ、すごいな」「どうやってつくっているんだろう」「自分もやってみたいな」という気持ちがある人は、どんどん成長していくと思います。

僕自身も、建築は知れば知るほど面白い世界だと感じています。
大工であれば木や道具、加工の技術を深めていく。設計であれば、敷地や暮らしを読み取りながら空間をつくる。現場管理やリノベーションにも、それぞれ違った専門性と面白さがあります。
そうやって一人ひとりが建築のスペシャリストになっていくのは、本当に面白いことだと思います。
そして、自分が考え、手を動かしてつくったものによってお客様に喜んでもらえる。さらに、その建物が何十年も地域に残っていく。
そこが、この仕事の一番の醍醐味です。
これからも、建築が好きな人たちと一緒に、職人の技術を残しながら、野沢工務店らしい家づくりを続けていきたいと思っています。

DATA
| 会社名 | (有)野沢工務店 |
|---|---|
| 所在地 | 〒420-0881 静岡県静岡市葵区北安東5-41-2 |
| 電話番号 | 054-247-8846 |
| 代表者 | 野澤 憲一 |
| WEB | https://nozawa-k.com/ |
| SNS |