
——入政建築のことと新野社長のこれまでについて教えてください。
入政建築は昭和元年(1926年)に初代が大工として創業しました。
僕は4代目なんですが、今年2026年でちょうど創業から100年になります。
初代は地元の町のお祭りの屋台※もつくらせてもらっていたような地元に根付いた大工でした。
※「浜松まつり」で、夜の主役となる御殿屋台のこと。昼間の勇壮な「凧揚げ合戦」に対し、夜は提灯の明かりに照らされた絢爛豪華な御殿屋台として有名。現在は80か町以上が参加し、各町が自慢の屋台を披露する。
この町では4台の屋台が引かれるんですが、そのうちの2台がうちがつくったもので、80年ほど前のものが今も現役で走っています。あとは近くの大久保神社の建物も初代が手がけたものです。
僕の父は元々よその工務店に勤めていて、その後うちに入って大工仕事を覚えて、1992年頃に法人化して、設計・施工を手掛ける今の入政建築のかたちになりました。
今も新築だけでなく、先代の頃からのお付き合いも含めて、リフォームの仕事もたくさんやらせてもらっています。
僕自身は高校までは建築に全く興味がなかったんです。最初は学校の先生になりたかったんですが、進路を考えていた時にこの事務所のリフォームがあって。ちょうど父がOMソーラーに加盟した頃で、大工小屋の一部を改装してお客さんが来られる「エコショップ」という場所にしたんですが、それを見て「ちょっとかっこいいな、こういうのがやれたら面白いかもな」と思ったのが建築に進んだきっかけです。僕が15歳くらい、今から25年ほど前の話ですね。

ただ僕は文系だったので、普通は科目が足りなくて建築学科には入れないんですよ。でも世の中は優しくて(笑)、文系からでも入れる建築系の学科が当時2つだけあって、そのうちの1つだった日本大学の生産工学部に進みました。
卒業後は山梨の工務店に就職して、現場監督を2年半やらせてもらいました。自分で見積りを取った工事で監督をやらせてもらったりして、現場のことはそこで覚えましたね。
それから浜松に帰ってきたんですが、現場のことが少しわかっても計画して提案するということは全く何もできていなかったんです。
それで、父が秋山東一先生とご縁があったこともあって、「秋山設計道場」に参加させてもらうようになりました。
現実の仕事では若い人間にチャレンジのチャンスはなかなか巡ってこないじゃないですか。設計道場では、ひとつの敷地に対して何を提案するかということをチャレンジさせてもらえたんですよね。
それが楽しくて、どんどんはまっていきました。もともと提案するようなことがやりたかったんだと思います。
父は自分のやりたいことをやるという性格で、他の人を細かく管理をしたりしない人でした。「そんなことできるわけないだろう」なんて一度も言われたことがない。だから僕もすごく自由にやらせてもらえました。
父と一緒にこの場所でやりながら、自分が提案したものが建つという経験を重ねて、現場と設計の面白さを知っていったという感じです。

——そのお父様が急に亡くなられて、代表を引き継がれたんですよね。
そうです。父は3年ほど前に亡くなりました。
設計は好きで楽しくやっていましたけど、経営のことは全くわからないと言っても過言ではない状態で代替わりして、これは結構な衝撃でした。
小さな会社の社長が亡くなるというのは、柱が一本なくなるということで、売上が半分になるんですよ。本当にそうなりました。
ただ、これからどうしようと考えた時に、家業としてやってきた会社をもう少し企業として充実させたいという思いがあって、人を入れてまずは元の状態に戻ることを目標に3年間やってきました。
この3年、「これがいい」と人に勧められたことをいろいろやってみたんですが、正直あまりうまくいかないことも多くて、それでわかったのは、自分たちのやり方があるんだなということ。
情報は仕入れた上で、自分たちなりに咀嚼して、自分たちらしくやらないとうまくいかない。
ようやくここ3年で、自分たちの強みと弱みが見えてきたと思います。
2年ほど前には自分の考えを言葉にしたコーポレートブックをつくって、社内で毎日読み合わせをしています。
それから、ホームページのブログも僕が自分で書いていて、週3本を目標にしています。大切なことはブログに書いて社内でもシェアするので、社員へのメッセージにもなっているんです。
あとは、契約した後のお客様がブログを読んで安心してくださるんですよ。現場の様子を紹介することが、工事の報告にもなっていたりします。
みんなが自分たちのやっていることを毎日確認しながら仕事ができる状態はつくれたので、これをベースに、集客や顧客満足度をどう上げていくかというのがこれからの課題ですね。
代表という立場がどういうものかわからないまま継ぐことになって、環境によって強制的に成長させられた面はかなりあると思います。
ここからは上昇しかないと思っているので、どこまでやれるか、自分でも楽しみです。

——入政建築が目指している家づくりについて教えてください。
家そのものに価値があるというよりも、「暮らしをつくる」ことが大切だと思っています。
家は使わなければつくった意味がない。使うことで日々の時間が変わって、そのことで人生が変わると思っているんです。
自分たちのつくったもので、住まい手の「いいね」という瞬間が増えていく。それができているのは、事業として本当に幸せなことだなと思います。

うちが掲げているのは「自然と共に暮らす」です。これは実は、父がずっとやってきたことを僕が言語化したものなんです。
ただ、「自然と共に」って本当は苦しいんですよ(笑)
建築物の価値って、本来は自然から遠ざかることにあるわけです。台風から守るとか、涼しくするとか、自然と真逆のことをやるのが建築の価値で、そのことと、「自然を心地よく感じる」ということのバランスが大切だと思っています。
風を通す、光を入れる、明るくする。自然と対峙するのではなくて、自然をうまく採り入れて、受け止める。自然環境が厳しくなってきている今だからこそ、「一緒に生きよう」という思考が大切なんだと思います。
でも、キャンプみたいな家では嫌ですよね(笑)
自然と一定の距離があるからこそ、ようやく自然を見ることができる。そこに建築が要るんです。自然と適度な距離をとって、自然を受け止められる家。それがうちが目指している家づくりです。
それからもうひとつ、建築は30年、40年と残るものなので、それは大きな責任でもあります。香川の菅組さんにお邪魔した時に「風景をつくる」という言葉を聞いてすごい言葉だなと思って、うちのビジョンとして「浜松一の風景をつくる会社になろう」というのがあります。

近所を散歩をしていても、アスファルトに囲まれた家ばかりでちょっと寂しいなと思うことがあります。
「自然と共に暮らす」という考え方の延長線上で、「浜松ならこういう家だよね」と自分たちが考える家を提案して、それが結果として風景になっていくのが理想です。
——この「いりまさの森」はすごく気持ちのいい場所なのでお客さんが来たら入政建築が目指している家づくりが一発で伝わりそうですね。

はい。ここはまさに「自然と共に暮らす」家づくりを体感してもらいたくてつくった場所なので、まずはここに来ていただきたいですね。月に1回、予約制で見学していただける日も設けています。
僕は犬を飼っていて、ここの庭はドッグランにもなっているので犬と一緒に来ていただくのも歓迎です。実は浜松って犬を飼っている人の割合が全国1位らしいんです。「犬・猫と一緒住める家にしたい」なんてご相談もあったりして、ペットと暮らす家づくりはうちに合っているなと思います。
それと、ここは家を建てて終わりではなくて、建てた後も楽しんでもらえる場所にしたいと思っています。そんな思いで、OBのお客様に向けたイベントもやっていて、毎回楽しんでいただいています。
事務所の一部はレンタルスペースとしても貸していて、定期的に教室を開いてくださる方もいて、月に10日ほど稼働しています。うちで建てた方もそうでない方も、この場所を通じて小さなコミュニティができていくのがいいなと思っています。

——入政建築の家づくりの売りを教えてください。
「自然と共に暮らせる家」を、感覚だけではなくきちんとかたちにしているところだと思います。
私たちは太陽の熱を活かす家づくりを父の代からずっと続けてきました。
モデルハウスで1年間を通しての温度の実測もしていて、屋根で集めた太陽の熱を床暖房に使う「陽のまど」を入れた等級5の家は等級6相当の体感になるというデータが取れています。
断熱は今後は等級6を基本にしていきます。そこに太陽の熱で家をあたためる「陽のまど」を組み合わせるので、かなり省エネな家になります。

ただ、うちは性能の数値をそれほど売りにはしていません。データはきちんと持った上で、お客様には「気持ちいいからね」とだけお伝えして、深く聞かれた時にはしっかりお答えするというスタンスです。性能を第一に掲げる会社さんも多い中で、そこは少し違うポジションかなと思っています。
実際、住まわれた方の満足度は高いと思います。無垢の木の家ってなかなかないので、木の香りだけでもすごく喜んでいただけますね。
それから庭とのつながりです。前職を経験して他の会社さんのことも色々と知るようになって、庭とのつながりを考えない会社が意外と多いことに驚いたんです。
うちは庭も含めて住まいだと考えていますし、庭は「見る」よりも「使える」ことが大事。芝生に多少雑草が生えるのもそういうものだよねという価値観です(笑)
自然をコントロールしようとし過ぎない。それも「自然と共に暮らす」ためのコツだと思います。
家自体も同じで、うちがつくっているのは作品ではなくて、道具のように「使える家」です。
だから見た目以上に使い勝手がよかった、と言っていただけるのが一番うれしい。細かく造り込みすぎずに、いつまでもその時々の必要に応じて可変していける家が理想です。
お客様には、本当に必要なところ、「時間が豊かになるもの」にお金をかけてほしいと思っています。
薪ストーブでもいいし、リビングを広くすることでもいいし、キッチンでこういう作業がしたいからこうしたい、でもいい。使うかどうかわからない造作家具を細かくつくり込むより、自分たちの暮らしに直結するところに予算をかけてほしいという考え方ですね。

あとは、「aisuの家」というセミオーダーの住まいもご用意しています。
aisuの家は、注文住宅の代替案ではありません。
入政建築の家づくりを体現した、フラグシップモデルです。
これまで培ってきた設計思想や、陽のまどをはじめとする性能、素材へのこだわりを標準仕様としてまとめています。
ベースとなるプランをもとに、ご家族の暮らしに合わせて間取りや仕様を調整できるため、自由度とコストのバランスにも優れています。
「この考え方が好きだから、aisuの家を選びたい。」
そう言って選んでくださるお客様も多くいらっしゃいます。
——「aisuの家」は木製サッシも印象的です。
木製サッシへのこだわりは、設計を教わった秋山先生の「家は窓が8割」っていう言葉の影響が大きいですね。
「aisuの家」はうちのフラッグシップモデルなので、入政建築の価値観を示す上でも採用しています。
木製サッシの良さって言葉ではなかなか表現しにくいですが、温かみのある外観とか、開け閉めの時の重みとか音の感じとか、五感で体感できる良さがありますよね。
LDKの一番いいところには入れたいなといつも思っています。

あと、木製サッシはメンテナンスが必要なところも含めていいなと思っているんですよね。
メンテナンスといっても数年に一回塗料を塗るくらいでそんなに大きな手間ではないし、こうした作業をすることで家への愛着が沸くと思うんです。
こうしたひと手間が、家をいつまでも大事に育てていこうっていう気持ちを育ててくれるんじゃないかなって思っています。
——家づくりではどんなお客様に来てほしいと思っていらっしゃいますか?
「どんな暮らしがしたいか」を持っている方ですね。
家を「買う」ものとして考えているお客様って実は多いんです。でも、どう暮らしたいかを一緒に共感しながら打ち合わせができると、僕らも楽しくお話ができるし、柔軟な提案もできるようになります。
よくあるのが、雑誌やSNSで見た洗濯動線とか、家族用玄関とお客様用玄関を分けるとか、そういう「各論」から入ってしまうケースです。
もちろんそれもできるんですけど、限られた予算の中でそれが大きな要望になってしまうと、かえって自分たちを苦しめてしまう場合もあると思います。それよりも「デッキでバーベキューがしたい」とか、そっちの方が大切だよねと。

とはいえ、最初からそういうものを明確に持っている方はなかなかいらっしゃいません。実際には、他の会社で「なんか違う、でも何が違うのか言葉にできない」という違和感を抱えてさまよって、最後にうちに来られるという方もすごく多いんです。
そこでお話しすると「そうそう、それそれ」となる。最初は平屋がいいと言っていた方が、暮らしの話を重ねるうちに3階建てになった、なんてこともありました(笑)
最近は、大きな企業にお勤めの方が増えた印象もあります。
大きな組織の中で働いているからこそ、うちみたいな小さなコミュニティに魅力を感じてくださっているのかなと思っていて、そういうご縁もありがたいですね。
だから、迷っている方もぜひ来てほしいです。一緒に考えるうちに、きっとほぐれてくると思います。
——入政さんはリフォーム・リノベーションにも力を入れてらっしゃいますよね。
はい。新築とリフォームの割合は売り上げで言うとちょうど半々くらいです。
うちにリフォームを頼んでくださる方は、これまで使っていた愛着のある建物にこれからも住み続けたいという思いを持っていらっしゃる方が多いです。
愛着のある家にこれからも長く住んでいきたいという方の建物なので、断熱・耐震の性能の改善まで含めた提案になることがほとんどです。
新築のレベルまで上げるのは難しいことも多いですが確実に性能が上がりますし、不便だった箇所やデザインが改善されるのでそれまでとの違いが分かりやすいのもあって、皆さんとても満足度は高いです。

あと、これは意外と知られていないんですが浜松市の事業者さんには天竜材を使ったリフォーム・リノベーションがとてもおすすめです。
浜松市がやっている「天竜材ぬくもり空間創出事業費補助金」という、浜松市から認証を受けた天竜材を使った店舗などの新築やリフォームなどに500万円まで補助が出るとてもありがたい補助金があるんですよね。
浜松市が天竜材の使用を後押ししてくれているので、ぜひもっと広く知っていただきたいです。
——最後に、入政建築で働いてみたいという人に伝えたいことはありますか?
社員大工として働きたい方にぜひ来てほしいと思っています。
うちは一つひとつの仕事をしっかりやりたい会社です。現場での所作も含めて、一つひとつのものづくりを大切にしているので、その価値を一緒につくってくれる人と働きたいですね。
うちの強みは、考える人とつくる人の距離が近いことだと思います。事務所のすぐ横に加工場があるので、設計と大工がすぐにやり取りできて、自分の考えをすぐフィードバックして改善できる環境があります。設計がこう言ったから仕方なくつくる、じゃなくて、意見を言い合いながら一緒につくれる。
実際、家具職人出身のスタッフは、自分で提案して、自分で作って、自分で納めに行くところまでやっています。一人ひとりが、ものづくりを最初から最後まで手がけられるのがうちらしさだと思います。

それと、僕がまだ40歳で若いのも大きいと思います(笑)
40歳の社長ってなかなかいないですし、いたとしてもつくる現場から離れた経営者であることも多い。でも僕自身が「つくりたい人間」なので、一緒につくることを楽しめると思います。
木工機械も一通り揃っているので、自分の腕をそのまま発揮してもらえます。
成長過程の会社なので、自分の理想とするものづくりを一緒に実現したい、一緒に育っていきたいという大工さんに、ぜひ来ていただきたいです。
DATA
| 会社名 | (有)入政建築 |
|---|---|
| 所在地 | 〒432-8006 静岡県浜松市西区大久保町6628-1 |
| 電話番号 | 053-485-0848 |
| 代表者 | 新野 達治 |
| WEB | https://www.irimasa.net/ |
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